結論「香港では治療費用補償は最低400万円必要」
先に結論を書いておきたいと思います。
香港では「疾病治療費用」「傷害治療費用」の補償額は、それぞれ最低400万円は欲しいところ。800万円なら安心です。あと注意したいのは、医療費が高額になる医療搬送が必要になったとき(香港⇒日本は約300万〜740万円)。重病時に医療搬送を必要とするかどうかで、必要な「救援者費用」の額が変わります。(下で詳しく説明します)。
このページの目的
海外旅行保険は、本当に1年で20万円以上もする「支払い無制限」のものが必要なのでしょうか?短期の保険なら、本当に、クレジットカード付帯の保険だけでは不足するのでしょうか?
このページでは、香港の医療費の価格を実際に見て、海外旅行保険をどれくらい掛けておく必要があるか、クレジットカード付帯保険なら、どれくらい不足するのか、ということについて考えてみます。
※東京海上やAIU、JI傷害火災、HS損保などの保険会社が公表しているデータから、できるだけ客観的に見ていきたいと思います。(記事下に、すべての出典リンクを掲載)
まず大前提として
海外旅行保険を考えるときに、まず大前提として2点、頭に入れておいてください。
- 一番使う確率が高いのは「治療費用」。この額をメインに考えるべき。
- 高額医療費の原因のほとんどが医療搬送。なので「救援者費用」の額も重要。
クレジットカードの宣伝でよくある「最大補償額●千万円!」というのは、実は利用確率の低い死亡補償の額だったりします。最大補償額が大きくても、あまり意味がありません。保険額を決めるのに重要なのは、「治療費用」と「救援者費用」です。覚えておいてくださいね。
判断基準
治療費用に関して↓
香港で盲腸手術:約80万円
- 全体的に、日本の約1.5~2倍の額の医療費(日本の10割負担額と比較)
- 集中治療室(ICU/CCU)の額: 約5~22万円/日(*4*5)⇒20日間100万~440万円
救援者費用に関して↓
医療費の価格&実際の事例
盲腸(虫垂炎)手術費用は総額約80万円
盲腸手術の費用データ
・11万円(手術代のみ。公立病院、2013年*4)
・41万円(手術代のみ。私立病院、2013年*4)
・12万円(手術代のみ。公立病院、2009年*5)
・46万円(手術代のみ。私立病院、2009年*5)
・90万円(病室代/看護費用/技術料など総費用。2008年*6)
ちなみに日本の医療費は↓こんな感じ。
●盲腸手術:総額約60万円
●個室入院:一日3〜10万円
●ICU入院:一日8〜10万円
(出典2008年*2)
入院時の部屋代は個室1日10万円
病院の部屋代(1日あたり)
・私立病院個室3〜12万円
・私立病院セミ個室1〜2万円
・私立病院一般病棟6〜9千円
・公立病院個室4万円
・公立病院セミ個室3万円
・公立病院一般病棟4万円
(すべて2013年*4)
※薬代、X線代、検査費は含まず
集中治療室(ICU/CCU)の費用
集中治療室(ICU/CCU)の費用データ(1日の価格)
・5〜7万円(私立病院、2013年*4)
・5〜8万円(私立病院、2009年*5)
・15万円(公立病院、2013年*4)
・17〜22万円(公立病院、2009年*5)
その他の治療費用のデータと事例
↓捻挫(ねんざ)で4.5万円。入院保証金の高さも気になるところです。
救急車の料金(2004年*3) | 無料 |
入院保証金(2013年*4) | 公立病院 35~107万円 私立病院 4~21万円 |
アキレス腱断裂の手術費用(2013年*4) | 公立病院 25万円 私立病院 41万円 |
pさん(女性32歳)は、香港に滞在中、ホテルの階段を踏み外して足首を捻挫してしまい、病院を受診。(2009年*) | 4.5万円 |
oさん(女性34歳)は、香港で鼻炎のため病院を受診。診察で鼻にポリープが見つかり、入院。ポリープを切除する手術を受けた。(2009年*5) | 104万円 |
高額な事例(医療搬送を含まないもの)
事故状況(年度・出典) | 保険金支払額 |
---|---|
首の痛み・発熱・脱力を訴え受診。化膿性脊椎炎・硬膜外腫瘍・肺炎と診断され19日間入院・手術。(2012年*1) | 340万円 |
以上のデータを見て、香港で治療費用は最低400万円、800万円あると安心、という判断をしました。
しかし、上記は、あくまで医療搬送が絡まないデータ。医療搬送が必要になったときの費用を、↓次に見てみましょう。
香港から日本へ移送費&実際の事例
↓飛行機での医療搬送は、定期便か、チャーター便かで、かなり価格が変わります。
定期便利用の場合
合計 約110~300万円
(2013年*4、2009年*5)
・付き添い医師1名、看護師1名
・座席を6~10席確保し、ストレッチャー利用
・定期便のメリットは、安いこと。
・デメリットは断られることもあること(感染症の疑いや、繁忙期など)
チャーター便利用の場合
合計 約740万円
・チャーター費用 約640万円(2011年*8)
・その他費用 約100万円
(その他費用の内訳)付添い医師1日20~40万円、付添い看護師1日約10万円、医療機材4万円、現地病院〜空港の車移送3~5万円、宿泊費用(遠路の場合)1人1泊1.5万円(以上、2009年*5)、成田空港〜都内病院の車移送 10~25万円(2013年*9)
・チャーター便のメリットは断られないこと。デメリットは高額であること。
香港から日本への医療搬送の事例
事故状況(年度・出典) | 保険金支払額 |
---|---|
けいれんし、意識を失い倒れる。肺炎・敗血症と診断され16日間入院。家族が駆けつける。医師が付き添い医療搬送。(2006年*1) | 850万円 |
往路便内で気分の悪さと発熱を訴え、到着後受診。肺炎と診断され3日間入院。家族が駆けつける。症状から現地での治療が難しいと判断され、医師が付き添いチャーター機で医療搬送。(2009年*1) | 542万円 |
↑これらのデータを見ても、医療搬送が最安の110万円だったとしても、治療費用だけなら800万円あれば十分なのがわかると思います。
以上が、医療搬送のデータです。ただし、この医療搬送、利用するかどうかは自分で選べます。「医療搬送は自分には不要」と割り切れば、海外旅行保険の保険料の大幅に節約できます。
医療搬送が必要かどうかの判断=大幅な節約
定期便で約300万、チャーター便だと約740万もかかる医療搬送。これは必ず必要なものなのでしょうか?
保険代理店に尋ねてみたところ「もちろん医療搬送も、やるかどうかは自分の判断(家族判断)になります」とのこと。では、医療搬送を希望する人というのは、どういう人で、どういう理由で希望するのでしょうか?
医療搬送はシニア層(65歳以上)が多い
ジェイアイ傷害火災が発表しているデータ(出典)によると、こんな事実が判明しています。
- 300万円超の高額医療事故はシニア層(65歳以上)が約半数である
- 2014年度 高額医療事故TOP5のうち4件がシニア(9,335万円〜1,888万円)
また、ジェイアイ傷害火災とエイチ・エス損保が公開している500件以上の事故事例(*1*7)を一つ一つ調査したところ、↓このような事実もわかってきました。
- 1000万円超の高額医療事故73件のうち61件(84%)が医療搬送。
- 医療搬送を病気に限定すると、脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞など、シニアに起こりやすい病気が多い。
このように見ていくと、シニア層(65歳以上)であるかどうかによって、医療搬送の可能性は、かなり違うことがわかると思います。65歳未満の場合は、医療搬送の可能性は、かなり低いと言えると思います。
また、逆の面から見ると、医療搬送は本人(家族)の希望で行うものであることから、「シニア層が医療搬送を希望することが多い」とも言えます。
医療搬送を希望する人は、どういう理由で希望するのか?
本人(もしくは家族)の希望で行う医療搬送。日本への医療搬送を希望する理由は、どういうものなのでしょうか?調べてみたところ、3つの理由に集約できました。
1. コミュニケーションの不安
2. 現地の医療水準が不安
3. 金銭的な不安
↑これら3つの不安をクリアできるなら、保険料の節約のために「医療搬送は不要」と割りきってよいことになりますね。
「医療搬送は不要」と割りきったとき、どうすべきか
では、今度は、重要な、「高額な医療搬送を断るなら、どう対応したらいいか」という問題を考えてみましょう。上記の3つの不安それぞれに対して考えてみます。
1. 「コミュニケーションの不安」への対策
これに関しては、日本の海外旅行保険は通訳費用も負担してくれるので安心です。通訳がいれば、最低限の意思疎通は問題ないでしょう。日本と同レベルの「かゆいところに手が届く」ほどのサービスは望めないかもしれませんが、それは仕方ないと割り切るしかないでしょう。
2. 「現地の医療水準が不安」への対策
ここ最近、日本以外の国の医療水準は、急速に上がってきています。さらに言えば、ほとんどの国に、外国人や富裕層向けの、高額だが医療水準の高い「ビジネス病院」があるものです。海外旅行保険に加入している日本人旅行者は、ほとんど、こういう病院を利用することになります。ですので、現地の医療水準を、国全体や、その地域全体で考えてはいけません。
とは言っても、香港は国全体からしても医療水準は高いです。外務省の海外安全ホームページにも、↓このように書かれています。
医療水準は先進国と同様と考えられます。
引用元:外務省 在外公館医務官情報 中国(香港)4.衛生・医療事情一般
バンコクの医療関係者の方で、医療搬送にも携わり、医療搬送の難しさと高額さをよく知っている方が、ブログ(2013年の記事)中で、↓こう書かれています。
そろそろ海外で罹災した日本人患者は何でもかんでも日本の医療機関だけを妄信するのはやめたほうがいいのでは?と言わせていただきます。韓国、バンコク、シンガポール、マレーシアのビジネス病院のレベルは、日本の総合病院と医療レベルにおいて遜色はなくなっていますし、サービスレベルで行くと日本よりもはや上になっています。…(省略)…従いまして、もし海外で不幸にも病気や怪我をした場合は、現地でも十分対忚できる医療機関があるかもしれないことを考て、そこからどこでどのように治療計画を立てるか柔軟に対忚するのが肝要かと思います。
引用元:先端医療情報ポータルサイト ハロードクター アジアの風 おまけの救急車両③
ですので、香港なら、医療搬送ではなく、現地で治療を続けるという選択肢もアリかと、私は考えます。
3. 「金銭的な不安」への対策
金銭的な不安というのは、具体的には、例えば、「集中治療室の費用が一日数十万円かかるので支払いが大変。医療搬送の費用を払ってでも、早く保険の利く日本で治療を受けたい」というような場合です。
これに対しては、また先程のバンコクの医療関係者の方のブログが参考になります。
日本以外の多くの国では、医療機関ごとに医療レベルの差、病院費用の差が存在しますので、患者や家族がどのレベルの病院で治療を受けるかという選択をしなければならなくなることがあります。
引用元:先端医療情報ポータルサイト ハロードクター アジアの風 私見シュミレーション②
つまり、簡単に言えば、「病院のレベルを下げれば医療費も下げられる」ということです。高級ホテルのような病院をやめて、地元の人も利用するような普通の病院を利用するだけで、かなりの節約になるはずです。
以上、3つの対策でした。
上の3つの対策を読んで、自分もできそうなら、「医療搬送必要なし」と割り切ることができるでしょう。無理そうなら、医療搬送になった場合も計算に入れて「救援者費用」の項目を多めに準備するようにしてください。
まとめ
- 治療費用は最低400万円。800万円なら安心。
- 高額医療費は医療搬送が原因になるので、医療水準の高い香港なら「医療搬送は不要」と割り切ることも一つの手段としてアリ。
医療搬送が不要の場合、救援者費用は200万円でいいでしょう。これは年会費無料クレジットカード1枚でカバーできる額です。
医療搬送を必要とした場合は、救援者費用は300万円以上必要。740万円以上ないと医療搬送でチャーター便は使えません。400万~600万円くらいまでなら、保険付帯カード2~3枚でカバー可能です。700万円以上だと、有料の海外旅行保険のほうが良いかもしれません。
治療費用に関しては、400万円なら年会費無料のクレジットカード2枚の合計でカバーできる額。カード付帯保険は死亡補償以外の項目は、複数枚もっているときは補償限度額を上乗せできるからです。3枚準備して600万円というのもアリだと思います。(参考:海外旅行保険付帯カード比較表)
また、少しお金はかかりますが、保険を充実させたい場合は、カード付帯保険と有料保険を併用する、という方法もオススメです。
ただし、注意点としては、カード付帯保険は90日間が最長ということです。3ヶ月以上の場合は、別の節約方法が必要になります。こちらの記事にまとめています。⇒半年〜1年など長期海外旅行保険の節約方法3つ
参考にさせていただいた文献リスト
保険会社の皆様、貴重なデータの公表、ありがとうございました!
*1 ジェイアイ傷害火災HP 海外での事故例(2002~2014年)
*2 ジェイアイ傷害火災HP 海外の医療事情(2008年のデータ)
*3 ジェイアイ傷害火災HP 海外の医療事情(2004年のデータ)
*4 東京海上日動 世界の医療と安全2014年
*5 東京海上日動 世界の医療と安全2010年
*6 AIU 海外での盲腸手術の総費用2008年(AIU海外留学保険総合案内サイト)
*7 エイチ・エス損保 旅行先でのトラブル事例
*8 チャーター機の料金は、アークEFI航空情報センター 航空機チャーター事業部(参考料金一覧)を参考に「1時間80万円×2(往復)×日本までの飛行時間(google mapより)」で計算。
*9 ④搬送費用 先端医療情報サイト ハロードクター
参考為替レート
2013年 1香港ドル=9.5〜10.7円
2009年9月7日 1香港ドル=12円
1香港ドル=約14円